ルリボシカミキリの青 福岡ハカセの言葉。福岡伸一 Shinichi Fukuoka

「生物と無生物のあいだ」でおなじみの、生物学者の福岡伸一さん。昨年何気なく眺めていたNHKの番組から聞こえてきた同氏の言葉がジーンと胸に響いたので、さっそくその出典である「ルリボシカミキリの青」(文春文庫)という本をアマゾンで購入して読んでみたところ、これがとても面白かった!のでご紹介します。

本書は同氏が「週刊文春」で連載していたコラムを再編集し、一冊の本にまとめたもの。日々の研究生活における気づきや、無邪気な昆虫少年だった頃の昔話、エッセイなどが2−3ページごとに綴られています。

科学者としてのロジカルな視点と、エッセイとしての味わいのバランスが絶妙に心地よく、生物学に全く明るくない私でもスーッと読めてしまいました。

読んでいると、まるで、最先端の生命科学に日々触れている「福岡ハカセ」が仕事の合間に、コーヒーを片手にご自身の書斎にそっと迎え入れてくれ、語りかけてくれているような感覚になります。きっとその書斎の壁は一面が本棚で、様々な図鑑や書籍が所狭しと並べられていて、机の上には昆虫の標本や論文なんかが積み上げられているんだろうなあ。かと思えば、フェルメールの絵がさりげなく飾られていたり、純文学的な小説もあったり。などと勝手に想像してみたりして。

この本の冒頭のプロローグにある一節をご紹介します。

「 君が好きなものが、例えば鉄道だってそれは全然かまわない。君はきっと紙の上に点と線を書きつけて路線図を書くだろう。山手線だろうが常磐線だろうが駅名はいつの間にか全てすっかりそらんじている。そのうち君は、ある鉄橋を渡る列車の写真を撮るために、地形図や時刻表を丹念に調べはじめる。鉄道の歴史や廃線のあとを知るため図書館に行って本や資料を探す。
 図書館の書庫に降りて、本棚の隅にようやく探していた本を見つける。開くと埃の匂いがする。裏表紙を開けてみる。そこに貼られている貸し出し票の日付印。なんと君は何十年ぶりの借りてだ。誰にも読まれず書庫の澱の中に眠っていた本。それを今、君が手にする。なんとなく嬉しくなる。それは君がちゃんと道を踏んでいる確かな証拠だ。10年前、この道をたどった誰かと同じように。
 あるいは君は、ある日の夕方、ふと空を見上げると沈みかけた夕陽に照らされてたなびく雲が流れてゆくのを眺めるときがある。ちぎれた細い雲の先の空は、もう群青色におおわれて、青がすっかり濃くなっている。そこに君は小さな星がまたたいているのに気づく。またたく星は、風にかきけされそうだけど、わずかな輝きは失われることがない。でもその光は果てしなく遠くにある。君はその時の、そんな気持ちを忘れないでいてほしい。それは時を経て、くりかえし君の上にあらわれる。それはいつか読んだ小説の中にもあったし、山崎まさよしの歌の中にもある。あるいは一千二百年前の万葉集の中にでも。
 調べる。行ってみる。確かめる。また調べる。可能性を考える。実験してみる。失われてしまったものに思いを馳せる。耳をすませる。目を凝らす。風に吹かれる。そのひとつひとつが、君に世界の記述のしかたを教える。 私はたまたま虫好きが嵩じて生物学者になったけれど、今、君が好きなことがそのまま職業に通じる必要は全くないんだ。大切なのは、何かひとつ好きなことがあること、そしてその好きなことがずっと好きであり続けられることの旅程が、驚くほど豊かで、君を一瞬たりともあきさせることがないということ。そしてそれは静かに君を励ましつづける。最後の最後まで励ましつづける。」

なんとも愛に満ちたあたたかい言葉だと思いませんか? 

私はこれを読んで、これまで「好き」なのに置き去りにしてきたものたちをもっと大切にして、ちょっとずつでもいいからその分野について調べたり、考えを巡らしたりしながら、自分を育てていかなくては!と思い直すことができました。

一度読み終わった後も、枕元に置いて、ちょっとずつ読み返してはその世界観に浸っています。

おすすめの本です。

ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで (文春文庫)

ちなみに冒頭で触れたNHKの番組は、2019年に放送されたNHKスペシャル 「ボクの自学ノート  ~7年間の小さな大冒険~というものでした。自分でテーマを見つけて新聞を読んで気になった記事をノートに書き記すという「自学ノート」を小学3年生から7年間ずっと続けてきた、福岡県に住む少年のお話。彼のすごいところは気になった人には直接会いに行き、自分が書いたノートを読んでもらい感想をもらいに行っているところ。もともと彼には学校で人とうまくコミュニケーションがとれないという悩みがはあったのですが、この自学ノートを通して、様々な分野で活躍する大人たちが彼とコミュニケーションをとるようになります。地元の商店街の時計屋さんの社長や、リリー・フランキーさんのような方まで。こちらでその一部を覗くことができますよ。

そんな彼を愛情一杯に育ててきたお母様が、「書」にして額縁にいれていたのが、先ほどご紹介した「ルリボシカミキリの青」のプロローグの一説です。その額縁をまた少年が気に入り、自分の机の上に飾っているのです。

私も、この少年のように、丁寧に愛情を込めてブログを書いていきたいなと思います。

Author: tomimunch

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