大学の後輩などから、たまに「どうやったら海外で働くことができますか?」と相談を受けることがあるので、今日はこのテーマについてお話ししたいと思います。
海外で働く日本人の殆どは以下の3つのパターンのいずれかに該当すると思うのですが、
1. 大学または大学院(MBA・マスター)から海外でそのまま現地就職
2. 日本企業の駐在員もしくは現地採用
3. グローバル企業内で海外の部署に異動
結論からいうと、圧倒的に 3. グローバル企業内で海外の部署に異動 がお勧めです。
具体的には、①グローバル企業に就職し、②言語・ローカル制度に依存しないトランスファラブル・スキル(どこでも通用するスキル)を身に付けて、③目の前の仕事で結果を出し、④社内公募で海外異動し、⑤そのまま現地採用に切り替える」というステップをたどるのが一番確実なのではないかと思います。
*稀に1−3に当てはまらない、自力で海外に渡って就職するような人もいますが、これは特殊な才能の持ち主(アーティストや寿司職人、学者など)に限られ、あまり一般的ではないと思うので、ここでは省きます。
順にご説明していきましょう。
①国籍問わず能力のある人材を本気で登用しているグローバル企業に就職する
これは、日系・外資系を問わず、本社からの駐在員(本社採用)+現地採用という2層人事体系ではなく、どの地域で採用されても他地域への異動可能な一律の人事体系を取っている会社に就職する ということです。
まず、一律の人事体系をとっているグローバル企業に就職することによって、こちらの記事でご説明したように、会社都合の「辞令」という運任せな方法ではなく、自分の希望するタイミングで、希望する部署・土地への異動を実現させることが可能になります。また、一律の人事体系をとっている会社であれば、多少物価の違いなどは反映されるにせよ、給与体系の一貫性が保たれるので、「現地採用と本社採用」のような格差が生まれません。さらに、ある程度の規模のグローバル企業なら、大抵の国際都市にオフィスを構えているので、行く先の選択肢も広がります。
重要なのは、できる限り人材をコモディティ(代替可能な資源)ではなく、投資すべきアセット(資産)と見做し、国籍問わず能力ある人材は積極的に登用、育てようとている企業に就職すべき だということです。これは、海外への異動を抜きにしても大切なことですね。
一方2層人事体系をとっている日系企業では、駐在員という道は先に述べたように海外へ行く&日本に帰るタイミングを自分でコントロールすることができないので運任せな側面が強く、一方でこうした会社の現地採用も、キャリア形成の面で有利とは言い難いのが実情です。もちろん例外はありますが、基本的に生え抜き主義の日本企業は海外現地採用を幹部候補者として見ておらず、駐在員と現地採用者に大きな待遇格差があるからです。仮に現地採用を幹部に登用していても欲しいのは「現地人材」であり「海外に住む日本人」ではないのです。日本語を話せるということで、アシスタント職や、営業のサポート職のような職種で日本人が現地採用されることもありますが、こうした募集は稀なので、何かあった時にキャリアチェンジがしにくいですし、こうしたポジションのために会社はなかなかビザのサポートをしてくれません。駐在員の配偶者や現地妻・夫など、ビザを必要としない人材が優先されます。
グローバル企業に就職することのもう一つのメリットは、最悪その会社で社内異動が叶わずとも、他のグローバル企業に入るための門戸が開ける という点です。グローバル企業での勤務経験は、履歴書上、大きな武器になります。特に外資系の採用担当者は、学歴などほとんど見ていません。見ているのは能力・実績と会社のカルチャーにフィットするかどうか。似たような多国籍企業での勤務経験があり、求められている分野である程度実績を残すことができているなら、かなり話は早くなります。海外拠点に直接転職するなら尚更、日本の大学名など全く役に立たないので、グローバル企業の名を借りる必要があるのです。
実際、私の周りにいるロンドン在住者を見渡しても、自分の意思でロンドンにいるという人は、グローバル企業で例えば東京支社で採用されて、香港に異動してさらにロンドンに異動して、希望で現地採用に切り替えた というようなパターンが圧倒的に多いように感じます。
ちなみに「 大学または大学院(MBA・マスター)から海外でそのまま現地就職」という道も全くないわけではありませんが、これはグローバル企業に就職する以上にはるかに狭き門であると個人的には思います。なぜなら、まず現地就職するには就労ビザをスポンサーしてもらう必要があるので、超優秀なネイティブ・スピーカーである現地の学生と比べても、採る価値のある人間であることを証明しなければならないからです。現地の学生と比べて明らかに優秀でなければ、わざわざ外国人を採るインセンティブは企業にはありません。英語で就活するというだけで大変なのに、さらにより優秀であることを、働いた実績がゼロの状態で証明するというのは至難の技です。しかも学生ビザには期限があるので、卒業してすぐに現地就職できないと、帰国という道を辿ることになります。
② 言語に依存しないトランスファラブル・スキル(どこでも通用するスキル)を身につける
①と②はどちらが先でも良いでのすが、とにかく、言語や市場特性に依存しない、どこでも通用するスキルを身につけることです。
具体的な例を挙げると、統計、プログラミング、アクチュアリ、エンジニアリング、データ・サイエンス、デザイン、建築、財務会計、証券アナリスト(CFA)等です。私が所属している金融分野も客観的にスキルと結果がわかりやすい世界なので、結果さえ出せればシニアマネジメントも「なぜ日本人をわざわざ雇うのか?」とはあまり問いません。
そして出来れば、「世界中探しても同じスキル持つ人は滅多にいない」という人材になることができると強いです。これには、優秀さの度合いというより、「希少性」がポイント。例えばこれから成長するニッチな分野での経験だったり、異なる二つ以上の分野の経験を持ち合わせている などです。ロボットの専門家は沢山いても、「ロボットの専門家でかつ教育分野に詳しい」ですとか、「プログラミングができてかつ環境問題に携わった経験がある」などといった人材はかなり限られるので、国籍がどうであろうと、「欲しがられる」人材になれる可能性が高いのです。
ちなみに、20-30年前は通用したでしょうが、日本市場の相対的重要性が低下しているこの時代では、「日本」をウリにして海外拠点で働くのはもはやリスクだと思います。日本の顧客や市場を担当するポジションのことですね。
日本という市場サイズが大きく(= 事務所を置く意味がある)、特殊な商習慣を持つ( = 日本的商習慣がわかる日本人が必要)市場に対しては、外国企業は東京オフィスを設立するので、どんなに頑張って海外就職しても、日本をウリにしていると、「日本人は本国に送り返そう」という力が働きます。これまで、そうやって日本人が東京オフィスに送還される例をいくつも見てきました。もし海外で安定的に暮らすことが重要なら、やたらと日本を武器にせず、「あれ、そういえば君、日本人だったっけ」ぐらいに思われている方が良いのです。(もちろん文化面では日本人としてのアイデンティティは持ち続けるべきだと思います。あくまでも日本関係の仕事しか任せることができないと思われる人材になってはいけない、ということです。)
言語については、ある程度の英語はできる必要があるので意識して普段から触れておくことをお勧めしますが、日本教育で得たレベルで十分です。ビジネス英語は慣れです。ある程度使うフレーズはパターン化してくるので、グローバル企業に勤めていれば普段からこうした英語に触れる機会も多く、自然と慣れてくると思います。むしろ英語は「出来る限りやるけどあとは行ってから慣れよう」くらいに構えておいて、自分のトランスファラブル・スキルを磨くことに集中した方が良いのではないでしょうか。
③結果を出す
これはシンプルに、とにかく目の前の仕事できっちりと結果を出し、周囲から信頼される人間になるということ。会社から信用されていなければ、いくら手を挙げても異動希望は叶いません。一方、いったん社内で必要な人材と認められれば、自分の希望する部署からも受け入れられやすくなりますし、会社も喜んでビザや引越し等のサポートをしてくれます。
いかがでしたでしょうか。
長くなってしまったので、とりあえず今回はここまでにしたいと思います。
(④と⑤についても、また別の機会に詳しくご説明しますね。)
もちろんご紹介したプロセスを歩まずとも海外で活躍している方は沢山いらっしゃるので、あくまでも私が知っている一つの成功パターンとして読んでいただけたら幸いです。
何はともあれ、まずは行動あるのみ!です。