海外駐在すべきか?悩んでいる人のために。 ロンドン駐在して良かったこと、辛かったこと

海外駐在するかしないか、という選択は私の人生にとって大きな決断でした。

上司から打診を受けて決断を迫られた時、人生一ぐらい悩んだので、似たような状況で悩んでいる方の参考になればと思い、ちょっと長いですが私の経験についてご紹介してみたいと思います。

結論から言うと「海外に転勤する」と言う決断を後悔したことは一度もありません。

でもロンドンに越してきたばかりの頃は、ふと「一人で異国の地で頑張って、一体何やってんだろう…」と思ってしまうことが多々ありました。
20代半ばでイギリスに単身駐在して、とくに最初の半年間は寂しくて不安で、毎朝胃を痛めながら「今日また対処法のわからないことが起きたらどうしよう」と恐る恐る出社していました。

家族に寂しい思いをさせ、当時の恋人を残し(残念ながら渡英まもなくして破局)、大切な友達からも離れ、仕事もわからないことだらけで、気軽に質問できる気の知れた同僚もおらず(部署で唯一の日本人)、日本の職場での過去の実績や築いてきた信頼関係などは当然全く通用せず「あなた誰?何ができるの?」と問い続けられる日々。

ある程度自信のあった英語(帰国子女、英検は一応1級…)もむなしくなかなか相手に自分の思いを正確に伝えられない。仕事の進め方も違えば、信頼関係の作り方も違う。自分が評価されると思ってやっていたことが必ずしも評価されないこと、自分が常識だと思っていたことの多くは非常識だったことに気づく。

Tube(地下鉄)は止まるしお湯も止まるし(ガス代が払えないのではなく、故障するのです)コンビニもないし日照時間少ないし携帯も盗まれるし、2015年のパリの銃撃テロ直後は毎日「今テロに遭ったらどうやって逃げよう」と考えながら出勤。日本人の友達は殆ど短期の駐在員で仲良くなったと思えば帰国してしまい、なかなか心許せる友達ができない。東京オフィスからもロンドンオフィスからも「外の人」という目で見られることに疲れるし、挙げ句の果てには日本人男性にロンドンに駐在しているというだけで「キャリアウーマンだね、理想高そう、結婚できなさそう」と急にレッテルを貼られるようになり、「好きでロンドンに転勤したわけじゃないし私は前と何も変わってないのに」とモヤモヤする始末。。。とここに書ききれないほど堪える瞬間が何度もありました。

デスクで泣き崩れてしまったこともあるし、東京の友達や同僚に忘れられて行ってしまうんじゃないか、と焦燥感を覚えたり、不安で眠れない夜がたくさんありました。

それでも。もし、同じ年代で海外駐在するかどうか悩んでいる人がいたら、不安に思っている人がいたら。私は全力で、背中を押したい。
なぜなら、上述した全ての辛さをはるかに越える、素晴らしい経験をすることができたから。

思えば、駐在の話が来た瞬間から、貴重な経験をしてきました。「ロンドン駐在する話をもらったけど、断ろうと思う」と話す私に、絶対に寂しいはずなのに(私は一人っ子で所謂現代的な母親大好きっ子です)、「長い目で見たら絶対にあなたのためになる。考え直してみたら」と泣きながら説得してくれた母。転勤することで絶対に迷惑がかかる直属の上司に相談したら「いい経験になる。俺だったら行く」と背中を押してもらったこと。「頑張ってね」ではなく、「早く帰ってこいよ!」と送り出してくれた同僚たち。

着任後ほどなくして仕事がうまくいかず、情けなくなってデスクで一人ほろほろと泣いていた時、何も聞かずに背中に手を当てて寄り添ってくれたイギリス人の同僚。一人で暮らす私を気にかけてくれたドイツ人の同僚(50代女性)がクリスマスの家族イベントに招待してくれたり、一人部署的なポジションで異動したためにチームメイトがいない私を見兼ねて自分のチームの一員として扱ってくれるようになったスペイン人の同僚がいたり、いきなり「〇〇(私の名前)、オハヨウ。ゲンキ?」と怪しい覚えたての日本語でしゃべりかけてきて「君をびっくりさせようと思って、日本語を練習してたんだ!」と笑うイギリス人の後輩の笑顔に癒されたり、国籍が全く違う4人(スウェーデン人、イギリス人、中国人、日本人)でイタリア珍道中の旅に出たり、スコットランド人とBrexitについて激論したり、ギリシャ人に味噌汁の作り方を教えたり、もうここには書ききれないほど貴重な経験をたくさんたくさんしてきました。

正月に日本に一時帰国してロンドンに戻ってきて、もやもやとしなながらも「温泉はやっぱりいい」などと表面的な話ばかりする私に、タイ人の友人(才色兼備のスーパーウーマン)が「それは良かったね。それで、空港で最後家族にバイバイする時、泣いちゃった?」と突然聞くので、なんで急にそんなこと聞くんだろうと思いながら「…まあね。だって家族が泣くんだもん。。なんで?」と照れながら答えると、「私も毎回、泣いちゃうからよ。大学院留学でイギリスに来てからもう10年以上経つのに、それでも毎回必ず、タイを離れるとき泣いちゃうの。でもね、それは普通のことなんだよ」と話してくれました。

そのとき、ああ、無理に強がらなくていいんだ。みんな一緒なんだ。と心が楽になりました。弱気な気持ちでも、認めてあげることが大切。こんなネガティブな気持ちでも、他人と共有することで、こんなに心が軽くなるのだいうということの大切さに気付くことができました。正直な言葉は人を支えてくれることがあるんだ、ということにも。家族に対しても、これまで寂しい、申し訳ない、というようなネガティブな感情を持ってしまっていたのが、これほど大切な家族を幸せにするためには、今私は何ができるかということに集中するように、ベクトルに変えることができるようになりました。

駐在して1年ほど経った頃、2代前の前任者の日本人と呑む機会があった時に、「今ロンドンで感じていることはさ、多分、本物だから。だからその感覚を大切にしなよ」と言われたことがあり、その瞬間は「ずいぶん酔っ払ってるなあ」ぐらいにしか思いませんでしたが、今はその意味がよくわかります。

これまで自分が培ってきたものをゼロにして、新しい環境で自分と向き合うという経験。私はこれを通じて、他人と支えあうとはどういうことか、家族の大切さやありがたみ、自分の人生にとって本当に必要な要素は何か、自分の強みや弱み、今後付き合いたい友人とはどんな人か、どんな仕事がしたいのか、ということが初めてちゃんとわかった気がします。

苦労は買ってでもしろ、という言葉ではないですけれど、辛い時期があるからこそ見えるものがあるということは真だと思います。
とまあ、こんなことを偉そうに言っていても、所詮会社に雇われの身で、色々と守られていた部分も多いと思いますし(visaの取得や給与面など)、個人的にヨーロッパがたまたま私に合っていたという面も大きかったと思いますが(芸術、文化面では最初から水を得た魚のようにエンジョイできました)。


今ではロンドンに来ることがなかった自分なんて想像できない。
だから、言いたいです。人とちょっと違う道を歩むからこそ、人生は面白いのです。おいで!と。

Author: tomimunch

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